「この仕事、AIで自動化できますよ」
そう言われたら、便利そうだと思う。でも、そこで「すごい! お願いします」と帰る人と、「他社ではどうしてる? 失敗したら何が起きる?」と聞く人では、出来上がるものが違う。
では、後者になるには、その仕事の専門家でなければいけないのか。
答えは、必ずしもそうではない。知らないなら、判断するための基準から調べればいい。
「分かっている人」だけがAIを使える?
経験者がAIを使うと強いのは確かだ。おかしな説明に気づけるし、頼む内容も具体的になる。
ただし、最初から答えを知っている必要はない。例えば「問い合わせ対応をAIに任せたい」と考えたとする。
最初の答えはたいてい立派だ。「対応時間を短縮できます」「顧客満足度が上がります」。夢のような窓口が文章の中に開店する。
でも、実際に知りたいのはそこではない。
「何件なら人が確認する?」「間違った回答をしたら誰が直す?」「似た会社はどこでつまずいた?」。この質問が出て初めて、自分たちが何を判断しなければならないか見えてくる。
一番使える質問は「他はどうしてる?」
知らない仕事を始めるとき、自分の経験だけで良し悪しを決めようとすると行き詰まる。
そんなときはAIに、「同じ問題を抱えた会社のやり方を複数探して。成功例だけでなく、失敗例も」と頼める。
一社の事例だけでは、それが普通なのか、その会社だけの事情なのか分からない。比べると、いままで見えなかった違いが出てくる。
例えば、問い合わせへの返事を速くする方法でも、担当者を増やす会社、よくある質問を整理する会社、質問の入り口を変える会社があるかもしれない。これは考え方を示すための例で、特定企業の調査結果ではない。
大切なのは「答えを一個もらう」から「比べる条件を集める」へ切り替えること。AIは正解をくれる自動販売機というより、比較対象を探してくる調査係だ。
「で、根拠は?」は一回目の答えを壊す質問
AIの文章は、間違っていても堂々としていることがある。だから、きれいな説明を読んで納得したところから、もう一歩だけ進む。
「その数字の出典は?」「逆の結果になった例は?」「どんな条件なら、この方法は使えない?」
すると、最初は万能に見えた方法が、「この条件なら使える」という形へ変わる。
ただし、AIが挙げた会社名や資料も、実在すると決めつけてはいけない。重要な数字や制度は、公的資料や企業の公式案内など、元の情報まで確かめる。
AIが間違った根拠を10個持ってきたら、説明の厚みは増える。でも正しさは1ミリも増えない。ハズレを10倍に増刷しても、当たり券にはならない。
人間には30回聞きにくい。AIにも30回聞く必要はない
職場で「根拠は?」「ほかには?」「それ本当?」を延々と続ければ、相手の時間も奪う。
5回目で眉が動き、12回目でため息が会議室の共有財産になり、30回目には会議を終えること自体が目的になりそうだ。
AIなら聞き直す相手への遠慮は小さい。だから、仮説を何度でも試しやすい。この点は大きな利点だ。
ただし、AIとの会話にも時間はかかる。質問が増えるほど判断が良くなるとは限らない。正反対の説明を延々と読み続けるだけなら、調査係が書類を積み上げる仕事に変わってしまう。
必要な確認が終わったら、いったん決める。情報集めが目的にならないようにする。
知らない分野では、この順番で考える
まず、「何を解決できたら成功か」を短く決める。次に、AIで別のやり方を集め、成功と失敗の両方を見る。
そこで「一番良さそう」と思った案には、逆の証拠を探す。最後に、重要な事実を元資料で確かめ、自分たちの予算や人数、責任の範囲に照らして決める。
これなら、最初から詳しくなくても「何を確かめないと危ないのか」は見えてくる。もちろん医療、法律、安全、重要なお金の判断でAIだけを最終確認役にしてはいけない。専門家や正式な資料を使うべき場面もある。
結論:AIを使える人は、全部知っている人とは限らない
AIに詳しい人が強いのは、「答えを知っているから」だけではない。おかしいところを見つけ、別の案と比べ、必要なら最初の考えを捨てられるからだ。
そして、その比べ方自体もAIで調べられる。
最初の「なるほど」で帰らず、「他社は?」「逆の例は?」「元の資料は?」と聞いてみる。そこで答えが壊れたら、失敗ではない。判断前に壊れてくれて助かったのだ。
30回質問できるのが偉いのではない。30回目で間違いに気づいたら、31回目に考えを変えられることが強い。
