アニメ『呪術廻戦』第29話「玉折」までのネタバレがあります。
五条悟は「最強」になった。敵に負ける心配はほとんどなくなった。それなのに、いちばん近くにいた親友・夏油傑が壊れていくのを止められなかった。
五条に足りなかったのは戦闘力ではない。夏油が一人になっていく日々を、二人で止められる余地があったかどうかだ。 ただし「声をかければ救えた」とまで言い切れる話でもない。
「最強」が生んだ、ひとりぼっちの夏
天内理子を守れず、その死を喜ぶ人々まで見た夏油。あの事件だけでも十分つらい。だが、そこで突然悪役のスイッチが入ったわけではない。
第29話の公式あらすじには、五条が一人で任務をこなすようになり、夏油も一人で過ごす時間が増えたとある。夏油の日常は、呪霊を祓う、取り込む、また祓う。その繰り返しだった。
かつては二人で並んでいたのに、片方が強くなりすぎて、もう片方だけが取り残される。「最強になってよかったね」で終われない、ひどく皮肉な変化だ。
「お前は間違っている」だけで戻れただろうか
灰原の死、九十九由基との会話、村で虐げられていた少女たちとの出会い。夏油の怒りは、いくつもの出来事で強くなっていく。
非術師を殺そうとした選択は、当然正当化できない。ただ、夏油にとってその過激な考えは、自分たちが苦しむ理由を説明する「答え」にもなりかけていた。
そこで五条が「それは間違いだ」と言うだけでは、呪霊を飲み込み続ける毎日も、死んだ仲間も戻らない。正しい反論と、追い詰められた人を助ける行動は、同じではない。
五条だけに「親友救出係」を任せない
五条なら「傑、最近どうした?」と、任務の話以外を聞く時間を作れたかもしれない。無下限呪術は攻撃を止められても、友人の「大丈夫」に隠れた苦しさまでは自動で見抜けない。
夜蛾なら、学生が孤立して重い任務を抱える状況を見直せたかもしれない。九十九なら、呪霊を生まない世界の話をしながら、夏油が暴力を本気で考えていないか確かめられたかもしれない。
もちろん、どれも後から考えた可能性だ。誰か一人が一言かければ必ず救えた、という証拠はない。そして最後に暴力を選んだ責任は夏油自身にある。
だからこそ苦い。五条は敵を倒す方法なら知っていた。でも、親友を一人にしない方法は、最強になっただけでは手に入らなかった。
