ダンベルを持ち上げた隣の人から、「どりゃあ!」。
こちらは黙々と回数を数えていたのに、急にボス戦の音響が始まった。驚きつつ、少し気になる。あの声を出すと、本当に力が出るのだろうか。
研究には、声を出したときに測定値が上がった例がある。ただし、種目を問わず効く必殺技とまでは言えない。そして「効果があるか」と「そのジムでどこまで音を出してよいか」は、別々に考えたい。
効果が出た実験も、出なかった実験もある
大学生のテニス選手を調べた研究では、声を出すとサーブやフォアハンドの速度・力が増した。
一方、等尺性デッドリフトの実験では、声による最大の力の有意な増加は見られなかった。等尺性とは、ここでは動かさずに引く条件のことだ。
この二つだけでも、「声を出せば、どんな運動でも強くなる」とひとまとめにはできない。運動の種類も測り方も違うからだ。
また、その場で出せた力と、数か月後に筋肉がどれだけ育つかは違う話。この結果だけで、叫ぶほど筋肉がつく、声が大きいほど得をする、小声でも同じ効果がある、とまでは言えない。
音だけでは、その人の理由は分からない
本人には動き出す合図になっているのかもしれない。気合いを入れるつもりなのかもしれないし、力を入れたときに声が出ているだけかもしれない。
ただ、隣で聞いているだけでは、どれなのかは分からない。「見せつけたいからだ」と決めつける必要はない。
静かな人が楽をしているとも、大きな声の人ほど頑張っているとも限らない。音量を努力の点数表にすると、筋トレのはずが声量コンテストになってしまう。
自分が声を出すなら、まず施設のルールを確認する
掛け声の扱いは、ジムによって違う。競技練習をする場所と、静かな利用を想定した場所では、求められる配慮も同じとは限らない。
分からなければ、スタッフに「トレーニング中の掛け声は、どの程度まで大丈夫ですか」と聞けばよい。声が出る人に一律に沈黙を求めるより、その場所での使い方を確認する方が話が早い。
研究を見たからといって、無理に叫んだり、重量を増やしたり、最後の一回を押し切ったりする必要はない。声は、フォームや安全を確認したことの代わりにはならない。呼吸の仕方に迷うときも、自己流で息を止める方法をまねるのではなく、資格のある指導者に相談したい。
周りの音が気になるときは、人物評ではなく状況を伝える
大きな音が続いて集中できないなら、我慢だけが選択肢ではない。スタッフに、例えばこう伝えられる。
「このエリアで大きな声が繰り返し響いて、利用しづらく感じています。館内のルールを確認してもらえますか」
誰がどんな性格かではなく、どこで何に困っているかを伝える。相手が重りを扱っている最中に注意したり、撮影してさらしたりする必要はない。
ただし、明らかにけがをしている、助けを求めているような場合は、普通の掛け声と決めつけず、すぐスタッフに知らせよう。騒音の相談と、助けが必要な状況は分けて考えたい。
掛け声は、全員に必要なトレーニング道具ではない
声を出す効果は、実験の条件によって結果が異なる。隣の人の「どりゃあ!」だけでは、その人の目的も、自分にも役立つかどうかも分からない。
自分の練習を安全に進めること。共有スペースのルールを確認すること。まずはその二つでよい。
ジムに行くたび、必殺技を一つ覚えて帰る必要はない。
