朝のメモには「眠い。今日は何も進まない気がする」。夜のメモには「新しい企画を三つ思いついた」。同じ一日なのに、まるで別の会議の議事録です。
これは説明用の例ですが、気分を短く残しておくと、その場の印象と、あとで読める記録を並べられます。夜だけ「布団の中の社長」が登場して、翌朝には役員全員が欠席。そんな違いに気づくこともあるかもしれません。
ただし、朝が苦手、夜は元気という型が誰にでも当てはまるわけではありません。AIが記録をまとめても、自分の状態を客観的に判定できるようになるわけではありません。ここでは、短いメモを読み返す手伝いに限って使います。
最初は、手元に短く残すだけでもいい
紙のノートや、自分で管理できるメモで始められます。AIに入力することは必須ではありません。
書くなら、日付・時間・そのときの感じ・直前にあったことを少し。たとえば「火曜8時、眠い。昨夜は遅くまで本を読んだ」「火曜15時、朝より話しやすい。打ち合わせが終わった」といった程度です。
きれいな日記に仕上げる必要はありません。書かなかった時間は空欄のままにします。記録がないことを「気分がよかった」と読み替えないのが大切です。
同じ物差しで数字をつける方法もありますが、その数字は自分の記録用です。病気の有無や、働けるかどうかを決める点数にはしません。
AIに渡す前に、渡してよい内容かを見る
気分の記録には、体調、私生活、職場の出来事が混ざりやすくなります。名前を消しただけで、誰の話か分からなくなるとは限りません。
外部のAIを使う場合は、保存や利用についての説明を確認し、共有したくない情報は渡さないようにします。他人の実名、具体的な職場名、秘密の案件、詳しい健康情報を、そのまま送る必要はありません。抽象化しても不安が残るなら、手元の記録だけで振り返れます。
WHOも、生成AIの不正確な回答や健康情報の保護に注意を促しています。便利な整理役に見えても、安心して何でも預けられるとは限りません。
音声入力を使う場合も同じです。周りに聞かれない場所か、意図しない言葉や名前が入っていないかを確かめてから扱います。
頼むのは「診断」ではなく「並べ直し」
共有してよい範囲を選んだら、依頼は狭くします。たとえば、こうです。
「この記録だけを、日付と時間の順に整理してください。書かれている感覚と出来事を分け、記録のない箇所は不明としてください。傾向に触れる場合は該当する日付を示し、原因・診断・生活上の指示は推測しないでください」
この依頼をしても、AIが必ず守るとは限りません。まとめに「毎朝つらい」とあれば、本当に毎朝の記録があるかを元のメモで確認します。「会議の後に疲れた」という一例が、「会議が原因だ」に変わっていたら戻します。
読みやすい文章と、正しいまとめは別です。整った説明ほど、元の記録と照らす手間を省かないようにします。
見つかった違いを、そのまま生活ルールにしない
朝に重さを感じた日があっても、「朝の自分に決定権はない」と決めつける必要はありません。つらかったという記録は、それ自体として残します。午後に作業できたから、朝のしんどさがなかったことになるわけでもありません。
同じように、夜に案が出たからといって、夜更かしが向いているという結論にはなりません。記録した期間、抜けた時間、仕事や予定の違いもあります。少数のメモから、自分の性格や能力を固定しないことが大切です。
急がない考え事なら、あとで見直す候補をメモしておく。そのくらいの使い方から始められます。一方、安全に関わることや期限のある対応、必要な相談を、AIの提案や「よい時間帯」待ちで遅らせないようにします。
記録の目的は、自分を採点することではない
毎日埋めることが負担なら、量を減らしたり、やめたりしてかまいません。つらさが続く、日常生活に支障があるときは、記録の分析だけで解決しようとせず、医療機関などの適切な専門家に相談してください。相談のために、完璧な記録をそろえる必要もありません。
AIが出した立派な人物評より、「火曜の朝はこう感じた」という短い原文の方が、役に立つ場面もあります。布団の中の社長も、眠い朝の自分も、まずは一つずつ記録する。結論を急がず読み返すための材料にしておきましょう。
