昼はちゃんとしていたのに、布団に入ると猫になる
仕事をする。用事を片づける。人に返事をする。自分で考えて、決めて、今日をなんとか終わらせる。
それなのに、布団に入った途端に出てくる言葉がある。
甘えたい。よしよしされたい。好きな人にくっつきたい。今日はもう、何も判断したくない。できれば猫になって丸まりたい。
昼間の自分を見た人には、少し意外かもしれない。さっきまで予定を調整していた人が、今は毛布の中で「撫でてほしい側」に回っている。
ここでは、その気分を「猫モード」と呼んでみる。責任をこなす自分から、くつろいでいたい自分へ。そんな変化を表す、ちょっとふざけた呼び名だ。
ただ、「猫になりたい」の中身は毎回同じとは限らない。誰かに会いたいのか、触れてほしいのか、話を聞いてほしいのか。それとも、疲れていて何も求められたくないのか。同じひと言の中に、いくつかの願いが入っていることがある。
寝る前だから、気づく気持ちもある
昼は目の前の用事でいっぱいだったのに、部屋が静かになると、自分の寂しさや疲れが気になる。そんな夜なら、急に別人になったと考えるより、後回しになっていた気持ちに気づいたと捉えることもできる。
ずっと決める側だったから、少しだけ誰かに任せたい。説明や分析をせずに、「今日もお疲れさま」と受け止めてもらいたい。そういう気分を、体くんが「本日の人間業務は終了です。あとは丸まりたいです」と言っているように表すと、しっくりくるかもしれない。
これは夜の甘えを説明する一つの見方で、全員に共通する仕組みではない。単に触れ合うのが好きな日もあれば、退屈な日、好きな人のことを思い出した日もある。「自立している人ほど夜は甘える」という法則にする必要もない。
一人の時間が好きで、誰かと近くにいる時間も好き。その二つは、同じ生活の中に置ける。
自由を守りたいからといって、いつでも一人で平気でいる必要はない。反対に、甘えたい夜があったからといって、これから全部を誰かに任せたいと決めたことにもならない。今夜の気分を、そのまま一生分の性格にしなくていい。
触れてほしい。でも、誰でもいつでもではない
手をつなぐ。少し抱きしめてもらう。隣に座って、肩が触れる距離でぼんやりする。こうした時間を心地よく感じる人はいる。触れ合いの心身への利点を報告する研究もある。
ただ、その研究が、今夜の自分の甘えたさの原因を教えてくれるわけではない。好きな人に触れたら体内のスイッチが順番に切り替わる、という説明にしなくても、「今はこれがうれしい」と分かれば十分なこともある。
大事なのは、自分と相手の両方が、その触れ合いを望んでいることだ。好きな相手でも、今日は暑い、疲れている、触られずに休みたいという日はある。さっきはよくても、途中でやめたくなることもある。
「ちょっとくっついてもいい?」と聞けること。「今日は隣で話すくらいがいい」と返せること。そのやり取りも、くつろぐ時間の一部にしておきたい。
触れないほうが落ち着くなら、同じ部屋で別々のことをしてもいい。安心の形を、抱きしめる一択に絞らなくていいのだ。
一人の夜にも、猫の居場所はつくれる
恋人がいない夜や、相手が先に眠った夜もある。そこで急に「安心できる人を今すぐ探さなくては」と、もう一仕事始めなくてもいい。
まずは慣れた毛布をかける。抱き枕を抱える。心地よい温度のシャワーを浴びる。静かなほうが楽なら音を止めるし、小さな音があるほうが好きなら、その好みに合わせる。
全部を実行する必要はない。今夜の猫が欲しいのは、温かさなのか、柔らかさなのか、静けさなのか。一つずつ選ぶくらいでいい。これは必ず眠れる手順ではなく、自分が過ごしやすい状態を探すための例だ。
重い布団が好きな人もいるが、重さや圧が苦手な人もいる。加重ブランケットについては、効果の根拠は限定的で、個別の安全確認が必要とされる。重ければよいと考えたり、好みからADHDなどの診断を推測したりしない。使う場合の適否に迷うなら、専門家に相談したい。
普通の寝具で心地よければ、それでいい。暑さや息苦しさを我慢して「安心できるはず」と自分を説得する必要はない。
また、一人で過ごす工夫を持つことと、誰にも頼らないことは別だ。話したい夜は、都合を確かめて親しい人に声をかけてもいい。猫モードまで、何でも自力で解決する課題にしなくていい。
恋人には、猫モードの説明書を少しずつ渡す
一人の時間は大事。でも、二人でいるときは手をつないでいたい。こうした希望は、外から見ただけでは分かりにくい。
普段一人で平気そうだから、触れ合いはあまり要らないと思われることもあるだろう。反対に、よく甘えるから、休日は全部一緒に過ごしたいのだと思われるかもしれない。
そこで、例えばこんなふうに伝えてみる。
「一人で過ごす時間も好き。でも会っているときは、少し寄り添えるとうれしい」
「寝る前に甘えたくなることがある。毎回応じてほしいというより、どういう形ならお互い楽か話したい」
相手の希望も聞いてみる。触れ合うのが好きかどうかだけでなく、どんなときにうれしいか、どんなときは離れていたいか。互いの生活を保ちながら、近づける時間を探していく。
相手が断る日があることと、自分の気持ちを笑ったり、嫌だと言っても触れたりすることは、分けて考えたい。いつでも甘えを受け入れる人だけが優しい人、という基準では窮屈になる。希望を言えて、断ることもできて、違いを話し合えるかを見ていくほうが、二人の暮らしには役立つ。
猫にも一人でいたい時間がある。こちらだけでなく、相手にも。
夜は猫を休ませて、人生会議は落ち着いてから
寝る前に寂しくなると、「今すぐ恋人がほしい」「前の相手に戻ったほうがいいのかな」と、話が一気に大きくなることがある。
その気持ちをなかったことにする必要はない。ただ、欲しいものが今夜の抱っこなのか、これからの交際なのかは、分けて考えられる。
急がない決断なら、「今日は誰かに労ってほしかった」「一緒にいるときの触れ合いを大切にしたい」とメモして、休んだ後に見直す方法もある。夜は体くんをなだめて、朝に人生会議をする。生活のリズムによっては、朝でなくても落ち着いて考えられる時間でいい。
もちろん、夜の気持ちが全部間違いで、翌朝なら必ず正解という話ではない。必要な助けや誰かとの会話を、朝まで我慢する決まりでもない。今の寂しさは受け止めつつ、急がなくてよい決断に少し余白をつくる工夫だ。
もし眠りの問題が日常生活に響いているなら、医療者に相談してよい。甘えたい気持ちがあること自体と、眠れず困っていることは分けて考えよう。
今日、猫になりたい自分には何が欲しいのだろう。柔らかい枕か、静かな時間か、ひと言のねぎらいか。
人間として頑張った日の終わりに、もう一度しっかり者を演じ直さなくてもいい。今夜は丸まりたい。その気持ちから、心地よい過ごし方を一つ選んでみる。
