ある上司には「あー、はい」しか返さない人がいる。ところが、別の同僚と話し始めると、状況を整理し、質問を返し、改善案までどんどん出てくる。
さっきまでの省エネ運転は何だったんだ。いや、本人の能力が突然3倍になったわけではない。
話せることと、今この相手に話すことは別の判断だからだ。
話すほど損になる相手には、言葉が減ることがある
例えば、改善案を出すたびに「じゃあそれも君が担当して」と仕事が増える。質問すると「そんなことも分からないの?」と言われる。話し合いのつもりが、いつも説教で終わる。
そうした経験が重なると、意見を出すこと自体を避ける人がいても不思議ではない。
もちろん、短い返事だけで理由は特定できない。単に忙しかった、体調がよくなかった、まだ考えがまとまっていなかった可能性もある。「嫌いな上司だから黙っている」とも決めつけないことが大切だ。
上司の前での発言量は、その人の能力そのものではない
ある会議で3回しか発言しなかった。これは観察できた事実だ。でも、そこから「この人は考える力が弱い」と結論づけるには情報が足りない。
別の場面で説明できるか。初めての問題を整理できるか。質問に答えられるか。説明を聞いた相手が仕事を進められるか。こうした実際の仕事ぶりも見て、はじめて評価の材料になる。
逆に、よく喋る人がいつも的確だとも限らない。発言の量は、マイクの音量みたいなもの。大きいから中身まで高性能とは限らない。
意見を出しにくい職場は、情報まで失う
組織の研究では、社員が改善案や問題への懸念を口にすることを調べている。例えば、管理職が自分の能力に自信を持てない状況では、部下の意見を求めにくくなったり、その意見を否定的に評価したりする傾向を示した研究がある。
だからといって、目の前の上司がそういう心理状態だと診断できるわけではない。研究から言えるのは、発言のしやすさは話す側だけで決まらないということだ。
「自由に意見を言ってね」と言いながら、異論のたびに怒る。これでは社員も学習する。「自由」の意味は「賛成意見だけ」だ、と。
評価するなら、会議での態度より行動を見よう
部下を評価する側なら、「もっと喋って」だけで終わらせず、「先週の問題でどう判断した?」「改善した内容を教えて」と具体的な仕事を聞く。発言の機会や条件が違う人を、会議の印象だけで比べない。
評価される側なら、思い当たることを一文だけ伝える方法もある。「今日は確認が主だったので、意見は後で整理して送ります」。その場で全部説明する必要はない。別の場所でできた仕事を、日時・成果・役割が分かる形で残すことも助けになる。
ただし、最低限の報告や必要な連絡まで省いてよいわけではない。黙ることが自分の仕事や周囲の進行に影響するなら、その点は調整が必要だ。
結論:「あー、はい」だけで査定するのは早すぎる
人は相手や場所によって話し方が変わる。静かな返事にも、納得、疲れ、警戒、考え中などいろいろな理由がある。
だから大切なのは、気に入った返事を引き出すことではなく、相手が何を理解し、何を実行できるかを確かめること。
「あー、はい」は性格診断でも能力テストでもない。 あれはたった4文字の返事だ。
参考:
- Fast, Burris & Bartel (2014), “Managing to Stay in the Dark: Managerial Self-Efficacy, Ego Defensiveness, and the Aversion to Employee Voice” https://doi.org/10.5465/amj.2012.0393
