ホテルのレストランで食事をした人が、フロントでお手洗いを借りようとする。
「さっきレストランを利用したんですが」と伝えると、スタッフは親切に案内してくれた。ごく普通のやり取りだ。ところが、言葉だけ切り取ると急に「高級ホテルの常連」みたいな雰囲気が出てくる。
しかも、その人のバッグには『ちいかわ』のモモンガのぬいぐるみ。
脳内の人物設定係が困惑する。「優雅な大人……いや、モモンガ生えてるぞ?」
見た目だけで、勝手に履歴書が完成する
平日のホテルにいる人を見て「時間に余裕がありそう」。高そうな服を見て「仕事もできそう」。モモンガを見て「かわいい物が好きそう」。ここまでは印象だ。
でも「金持ちに違いない」「浪費家だ」「子どもっぽい」と断定した瞬間、見てもいない貯金額や性格まで書き込んでいる。
実際、同じ顔写真でも裕福に見える服を着せると、能力まで高く評価されやすいことを示した研究がある。2020年の論文がまとめた9つの実験だ。ただし、これは服と第一印象を調べた研究であって、「モモンガのぬいぐるみが性格を変えて見せる」と証明したものではない。
「見た」と「決めつけた」の間にある飛躍
確かに見たのは「ホテルにいた」「食事をした」「ぬいぐるみを付けていた」の3点だけ。
平日の理由は有給休暇かもしれない。高い食事は年に一度の楽しみかもしれない。モモンガは単に好きなキャラかもしれない。どれも本人に聞かなければ確定しない。
人の行動を状況より性格のせいにしやすい傾向は、心理学でも知られている。でも、それを意識しても第一印象が完全に消えるわけではない。
だから、「あの人はこういう人」と思ったら、別の説明を一つだけ追加してみる。「今日はたまたま休みかも」。それだけで脳内の判決を少し遅らせられる。
最後に
ホテルにいた人の銀行残高は見えない。バッグのモモンガは、その人の性格診断書でもない。
人類は他人の設定資料集を勝手に書きがち。でも本人の公式設定は未公開。
そして当人は、ただトイレに行きたかっただけかもしれない。
参考:Oh, Shafir & Todorov (2020), Nature Human Behaviour, https://doi.org/10.1038/s41562-019-0782-4 / APA Dictionary of Psychology「fundamental attribution error」 https://dictionary.apa.org/fundamental-attribution-error
