※テレビ版『コードギアス 反逆のルルーシュ』第1期23話までのネタバレを含みます。
ルルーシュのギアスを見ていると、一度は考えたくなる。そこまで強い命令の力があるなら、皇帝一人を倒すことに集中すればいいのではないか。わざわざ仮面をかぶり、黒の騎士団を作り、大きな戦争に踏み込む必要があるのか。
素朴だけれど、面白い疑問だと思う。ただ、この問いには、倒したい相手と、手に入れたい未来が同じものだという前提が入り込んでいる。ルルーシュの場合、そこが一致していない。
皇帝を倒すことと、望む世界を作ることは別
私なりの答えは、ルルーシュの目標が皇帝個人の死だけでは終わらないから、というものだ。
父への怒りが晴れること。ナナリーが安心して暮らせること。自分たちを踏みつける帝国を変えること。この三つはつながっていても、同じ出来事ではない。最初の一つが実現すれば、残りも自動的についてくるわけではない。
皇帝を倒したらエンディング、とはいかないのだ。翌日にも軍はあり、皇族はいて、統治される人々の生活は続く。その中で、ルルーシュとナナリーがどんな立場になるのかは、別に考えなければならない。
だからこの話は、もっと効率のいい倒し方はないか、というだけでは解けない。彼が何をもって終わりにできる人間なのか、という話でもある。
ナナリーへの願いに、母の事件と自分の理想が重なる
ナナリーのために優しい世界を作りたい。その願いは、ルルーシュを考えるうえで外せない。けれど、彼を妹の安全だけを計算する人として見ると、こぼれてしまうものもある。
サンライズの作品紹介も、妹だけでなく本人の理想を目的に含めている。
母マリアンヌの事件も、片づいた過去ではない。第1期のシュナイゼル紹介には、母の事件の手掛かりとしてクロヴィスが彼を挙げたことが記されている。誰が何を知っているのかを確かめたい思いと、妹の未来を変えたい思いが、同じ反逆の中にある。
そこには、守りたい気持ちだけでなく、奪われたものへの怒りもあると私は読む。父に勝ちたい、帝国の側が当然としている世界をひっくり返したいという強さも、ルルーシュの魅力であり危うさだ。
彼は、誰にも気づかれず、兄妹二人が無事ならそれで満足、という人物としては描き切れない。だからといって、最初から全ての人の幸福だけを考える無私の革命家として持ち上げるのも違う。身近な願いと、巨大な反逆の意志が、同じ人間の中でぶつかり合っている。
ギアスは強い。でも、帝国全体が従うわけではない
もう一つ、近道の想像で見落としやすいのが、ギアスを持つことと、望む結果に必ず届くことの違いだ。
目の前の相手に命令を通せても、皇帝への接触や、その後の成り行きまで全て保証されるわけではない。一人の判断を動かす力があっても、広い場所で別々に動いている人々や組織まで、まとめて自分のものになるわけではない。
実際、第7話の公式あらすじが示すように、ギアスを持つルルーシュもコーネリアに敗れる。能力が強いことと、戦いの全体を支えられることは違う。この敗北を挟むと、組織を求める意味がぐっと見えやすくなる。
自分が考えたとおりに、その場の全員が動いてくれるのか。自分が見ていないところでも、協力は続くのか。危機が来たときに、味方が持ちこたえられるのか。そうした部分まで、ギアス一つが埋めてくれるわけではない。
暗殺だけなら楽だった、とまでは言えない。それは成功が保証された別ルートではなく、見ている側が思い浮かべる仮定だ。しかも、仮に成功したとしても、彼の欲しい未来をどう実現するかという問題は残る。
皇帝がいなくなっても、帝国はすぐには消えない
ブリタニアには、シュナイゼルやコーネリアのような力を持つ皇族がいる。軍も貴族もあり、植民地を支配する仕組みもある。皇帝が中心にいることと、皇帝一人だけで全てが動いていることは同じではない。
だから、皇帝がいなくなった後も、既存の力が別の形で続く可能性はある。誰が必ず後を継ぐと決めつけなくても、頂点の一人が消えれば危険も差別も全部なくなる、と考えるには無理がある。
作中でも、クロヴィス殺害後の第4話では、スザク救出が焦点になる。皇帝の死と同じ影響だという意味ではない。ただ、有力者一人を倒せば、周囲の権力や人々の問題まで片づくわけではないことが、早い段階から見えている。
ナナリーについても、皇族としての血筋や、ルルーシュとの関係が残る。誰かに利用される余地や、秘密が露見した場合の危険まで、皇帝の退場だけでなくせるとは言い切れない。
大事なのは、暗殺すれば必ずもっと危険になるということではない。暗殺が成功しても、安全を保証できるわけではないということだ。ルルーシュが欲しいものは、父のいない一日だけではなく、妹がその先も生きていける未来なのだから。
ゼロの仮面は、隠れるためだけではない
ここで、ゼロと黒の騎士団の意味が出てくる。
仮面はルルーシュの身元を隠す。それと同時に、彼の素顔を知らない人にも届く旗印を作る。人々が支持するのは、ルルーシュという兄の個人的な事情だけではなく、ゼロが何をすると約束し、どんな行動を見せるかだ。
黒の騎士団があり、日本人の支持があり、帝国の外にも協力を求める相手がいる。それによって、個人の力だけでは動かせない規模のことに手が届く。皇帝への一回の攻撃ではなく、その後の世界にまで影響を持ちたいなら、こうした基盤を作る理由がある。
ただし、仲間が増えることは、自分の駒が増えることだけではない。日本を取り戻したい人もいれば、大切な相手を守りたい人もいる。全員が、ナナリーのために集まったわけではない。
彼らに力を貸してもらうなら、その人たち自身の願いにも向き合う必要が生じる。ゼロの約束が信じられるのか。自分たちの命が、説明されていない別の目的に使われていないか。組織を持つほど、ルルーシュの胸の内だけでは済まない問いが増えていく。
私はここに、暗殺者という想像上の役割と、指導者ゼロとの大きな違いを見る。自分の敵を倒す話から、他人が自分を信じる理由まで背負う話になるのだ。
妹を守る戦いが、他人の人生まで巻き込んでいく
その重さが残酷な形で見えるのが、ユフィ事件の後だ。第23話の公式あらすじでも、黒の騎士団は惨劇の混乱下に攻勢へ出ている。
ルルーシュ個人の悲しみと、ゼロとして前へ進める反乱が、同じ方向を向いているとは限らない。それでも彼は、起きた惨劇を帝国に対抗する勢いへと結び付ける。そこに政治的な理由を読み取れても、犠牲者やユフィに対する残酷さが消えるわけではない。
革命家だから弁護できなかった、そうするしかなかった、と言ってしまうと、彼の選択が運命のようになってしまう。組織を失いたくないことと、事実を説明する余地が全くないことは別だ。苦しい立場に追い込まれているからこそ、何を選び、誰に何を負わせたのかを見たい。
また、ナナリーを守りたいという動機があることと、ナナリー自身がその方法を望むことも同じではない。優しい未来を掲げれば、そこへ至るまでの傷が自動的に正当化されるわけではない。
ルルーシュが皇帝暗殺だけで済ませないのは、目標が一人の死より大きいからだと私は思う。母の事件、父と帝国への怒り、ナナリーの未来、自分の理想。これらを同時に動かそうとするから、ゼロになり、組織を持ち、革命に踏み込む。
けれど、目標を大きくした分だけ、払う代償が彼一人のものではなくなる。妹を守りたいという身近な願いから始まるのに、いつの間にか他人の人生まで背負っている。
そこが、ルルーシュの面白さであり、見ていてしんどいところでもある。皇帝一人を倒せば終わる話ではない。だからといって、その先へ進む彼の全てを、正しいと呼べる話でもない。
