魔王が勇者に負けた。力も地位も失った。そこで決意する。「魔物ギルドを作って返り咲くぞ!」
なるほど。仲間を集めて、小さな組織を立て直す話だな。
……と思っていたら、魔物の国に人間の軍隊が攻めてくる。すごく強い敵も来る。戦争が始まる。待って。ギルドの受付窓口はどこ?
漫画『勇者に敗北した魔王様は返り咲くために魔物ギルドを作ることにしました。』は、題名から想像する仕事と、読んでいるうちに始まる仕事の規模が違いすぎる。
1巻の約束は「魔王の再就職」だった
新潮社が1巻を紹介するときの言葉は「七転八倒コメディ」。かつて暴れ回った魔王が勇者に倒され、見る影もない姿で生き延びる。誇り高い人ほど、落差がでかい。
元・魔王という肩書きはある。しかし実際には、仲間も力も足りない。本人は本気で再起しようとしているのに、読者からは「まず今日を生き延びられる?」と心配される。
まるで前職が「世界の支配者」だった人の転職活動だ。職務経歴書だけは異様に強い。今の採用条件は厳しい。
2巻で、もう組織づくりどころではない
2巻の公式あらすじでは、魔王はスライムたちを連れて「隠匿の女王」を訪ねる。そこに人間側の魔物掃討作戦が始まってしまう。
人を集めようとしたら、その人たちが暮らす場所ごと危なくなった。
3巻では、魔王が女王とスライムを逃がすために一人で残り、強敵ヴァルゴスキーと戦う。小さな組織を作るつもりが、仲間の命を背負っている。
ギルドの運営会議より、まず全員が無事に帰れるか。仕事の優先順位が荒ぶりすぎる。
「ギルドを作る」は、建物を作る話ではなかった
さらに話が進むと、8巻の公式紹介は「世界征服」を目指す仲間集め。13巻の紹介では、人間と魔物の総力が集まり、最終決戦へ向かう。
1巻で想像した「魔物たちの小さな集会所」が、気づけば世界の行く末を左右する集まりになっている。
ここで効いてくるのが、ギルドという言葉の読み方だ。題名から事務所の設立を期待すると「いつになったら作るの?」となる。一方、魔物の仲間を増やし、居場所と力を取り戻す話だと受け取ると、毎巻ちゃんと前に進んでいる。
もちろん、ギルドを名乗る具体的な組織が何巻で正式に成立したかは、今回確認した出版社の紹介文だけでは断定できない。ここで言えるのは、少なくとも宣伝文の主役が「登記手続き」ではなく「仲間と生き残る戦い」へ大きく移っていることだ。
タイトルは間違っていない。でも説明している規模が小さい
初めは「落ちぶれた魔王、再就職します」に見えた。それが「仲間を守るため、人間と魔物の世界に向き合います」になっていく。
コメディは消えない。ただ、骨っぽい魔王と妙に頼もしいスライムの背後で、世界がどんどん物騒になっている。
ギルドはいつ作るのか、と聞きたくなる気持ちは分かる。でも、物語はもう「作れる状態を取り戻すために何と戦うか」のほうへ走り出した。
魔王様、起業しようとしただけなのに事業計画書が世界史になってます。
