頼んでいない料理が席に届いても、食べただけで自動的に詐欺罪と決まるわけではない。だからといって、間違いに気づいて食べても問題ない、という話でもない。日本の法律では、店員と何を話したか、いつ間違いを知ったかが重要になる。
たとえばラーメンを注文したのに、隣の席のうな重が運ばれてきたとする。
「え、頼んでませんけど」と言いかけて、いったん箸を置く。ここまでは普通の客だ。「新人さん、配膳ミスありがとう」と心の中で乾杯し、そのまま食べ始めたら、今度は客の行動も問題になる。
店員が間違えたなら、だましたことにはならない?
刑法246条の詐欺罪は、人を欺いて物などを渡させる場合を定めている。自分から「それ、私の注文です」と嘘をついて受け取るのと、店員が何も聞かずに置いていったのでは、経緯が違う。
ただし、自分から嘘をつかなかったから絶対に詐欺にならない、とも言い切れない。間違いを知りながら黙って受け取った場合に、どんな説明義務ややり取りがあったかも問題になり得る。ほかの財産に関する罪が成立するかも、料理を誰が管理していたかなど、具体的な事情次第だ。
大事なのは、SNSの短い投稿だけを見て「詐欺確定」「店側のミスだから無罪確定」と二択にしないこと。
一番ややこしいのは、食べる「前」と「後」
食後に「誤配ありがとう」と投稿した人がいたとする。その一文だけでは、食べる前から誤配だと知っていたのか、食べ終えてから気づいたのか分からない。
一方、食べる前に「頼んでないうな重来た。いただきます」と写真付きで投稿していたらどうか。少なくとも、食べる前に間違いを認識していたという判断を支える材料になる。投稿時刻が示すことと、実際の行動を分けて確認する必要はあるが、証拠の意味はまるで違う。
レシート、注文端末、店員との会話、同席者の話、防犯カメラ。調べる材料は増える。カメラが映すのは箸とうなぎであって、頭の中に出た「タダ飯だ!」という字幕ではない。
隣に警察官がいたら、その場で逮捕?
これも自動ではない。刑事訴訟法には現行犯逮捕の規定があるが、そもそも犯罪に当たる事実があるか、現行犯としての条件を満たすかは別の問題だ。
警察官が隣の席にいるというだけで、うな重を食べる人全員に手錠が配られるわけではない。逆に、店員との会話から食べるまでを直接見られていれば、ネット投稿だけの場合より、当時のやり取りは確認しやすくなる。
うなぎより先に確認したい一言
届いた料理が自分の注文と違うなら、「これ、私のですか?」と店員に聞けばいい。
一皿のうなぎで、配膳担当だけでなく注文履歴、監視カメラ、SNS投稿時刻まで総動員して「食べる瞬間に何を考えていたか」の調査を始める必要はない。
店員のミスは、料理が別の席に着いたこと。客のミスは、そのミスを発見したあと、自分から続編を制作してしまうことだ。
参考法令
- 刑法246条(詐欺)、254条(遺失物等横領):https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
- 刑事訴訟法212条・213条(現行犯人・現行犯逮捕):https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131
日本法についての仮定の話であり、特定の投稿者や実際の事件の犯罪成立を判断するものではありません。
