AIは使える。で、誰が楽になる?
求人票に「生成AIを積極的に活用」「AIで業務改善」とある。
文章のたたき台を作り、長い資料を整理し、繰り返し作業の手間を減らす。そういう働き方ができるなら、面白そうだ。毎回ゼロから資料を作るより、考えるところに時間を使いたい。
ただ、ここで一つ聞いておきたい。
作業が速くなったら、その後はどうなるのだろう。
「残業が減りました」かもしれない。「確認に時間をかけられるようになりました」かもしれない。一方で、「では、次の案件もお願いします」かもしれない。
資料も、顧客対応も、改善も、まだ誰も担当していない仕事も。「AIが使えるなら、これもできるよね」が積み重なると、本人の席だけがどんどん多機能になる。
ここでは、その状態を「AI搭載便利屋」と呼んでみる。AIを使える人をからかう言葉ではない。道具を使いこなせることを理由に、担当も上限も曖昧なまま仕事が集まる状況の呼び名だ。
AIを使えるという一文だけでは、仕事が軽くなるかどうかは分からない。見たいのは、使った後の働き方まで話せるかどうかだ。
浮いた時間の行き先までが、業務改善
文章の下書き、要約、表の整理、コードの案、議事録や問い合わせ返信のたたき台。AIを試せる作業はいろいろある。ただし、どの仕事でも、誰が使っても、同じだけ時間が浮くとは限らない。
コンサルタントの実験では、AIが成果を上げる課題と、下げる課題があった。
AIで短くなったのは、作業全体なのか、それとも下書きの部分だけなのか。確認と修正にかかった時間も含めて考えたい。
例えば、資料の下書きを早く作れるようになったとする。そこで、数字や出典を確かめる時間を増やすこともできる。同じ資料を他の人も作れるよう手順を整えることもできる。対応件数を増やすという使い方もある。
件数を増やすこと自体で、会社の善悪が決まるわけではない。本人が望む役割や、必要な人手、期限、品質の目安と一緒に話されているかが気になるところだ。
負荷を減らしたい人にとっては、「少し速くなった分、ずっと満杯にしておく」という運用は合いにくい。挑戦の幅を広げたい人でも、何を優先し、どこで止めるかは知っておきたい。
「会社の評価OS」という比喩で言うなら、AIの導入より先に、何をよい仕事として数えるのかを見る。件数だけか。ミスや作り直しが減ったことも見るのか。残業が減ったこと、他の人へ引き継げるようになったことも成果になるのか。
道具が速くなっても、優先順位が自動で決まるわけではない。AIの席を一つ増やしたら、会議の結論まで勝手に出る、というほど話は親切ではない。
小さい会社の「幅広く」は、中身を聞く
少人数のチーム、CEO直下、一人目の担当者、自分で動ける人、カオスを楽しめる人。そこに「AI活用」が加わると、自由にいろいろ作れそうに見える。
実際に、仕事の進め方から関われることを魅力に感じる人もいる。まだ整っていないからこそ、提案が形になる場面もありそうだ。
一方で、顧客対応、改善、資料作成、要望の整理、サービスへの意見の取りまとめが全部近くにあると、仕事の境目は確認しておきたくなる。担当者は一人なのに、受付窓口だけ増築されていくと大変だ。
小さい会社だから悪い、大きい会社だから安心、と分ける話ではない。「CEO直下」や「裁量」という言葉から、実際の支援や負荷までは分からない。
例えば、次の二つは印象が違う。
「最初はこの仕事を担当します。改善の提案は責任者と優先順位を決め、新しく始める時は今の仕事も見直します」
「役割にこだわらず、気づいたことは全部お願いします。AIも使えますから」
これは比較のための仮の例だ。面接の一言だけで会社を判定するのではなく、実際の担当範囲、相談先、過去に仕事を減らした例まで確かめたい。
幅広い経験ができることと、際限なく拾うことは、同じではない。
改善を仕事として扱う場所か、ついで扱いする場所か
曖昧な依頼を整理する。手順を作る。部門の間で食い違うやり方をそろえる。問い合わせが詰まる場所を見つける。誰か一人しかできない作業を、他の人にも引き継げるようにする。
こうした仕事は、目の前の依頼を片づけるのとは別に、時間と判断が要る。AIで文章を書けても、どの手順に変えるかを関係者と決めたり、新しいやり方を続けられる状態にしたりする作業は残る。
求人を探す時は、「AIが使える人」という言葉だけでなく、業務改善、社内のデジタル化、顧客対応の仕組みづくり、サービス導入の進行管理、部門をまたぐ業務の調整、といった仕事内容でも見てみるといい。
ただし、職種名が立派なら安心という保証はない。同じ名前でも担当は会社ごとに違うし、改善が名前に入っていなくても、その仕事をきちんと評価する場所はある。
確かめたいのは、改善が実際の仕事として予定に入っているかだ。
通常業務のすき間に、善意で全部やる想定なのか。改善に使う時間があるのか。関係者を集める時に協力を得られるのか。作った手順や仕組みを、誰が引き継いで使うのか。
「気づいたなら、ついでにやって」と、「その改善を進めるために、今月の優先順位を変えよう」では、同じ能力の扱われ方がずいぶん違う。
便利に動けることを、自分だけの常時対応サービスにしなくていい。
面接では、「増やす時に何を減らすか」まで聞く
聞きたいことは多いが、質問攻めにする必要はない。まず一つ、実際の仕事を例にしてもらうと話しやすい。
「このポジションで新しい改善テーマが出た時、誰が優先順位を決めますか。既存の仕事をやらない、または後ろへずらす判断は、どなたができますか」
そこから、必要なところを具体的に聞いていく。
- 入社直後に期待する仕事と、担当しない仕事は何か。
- 通常の対応と改善活動が重なった時、どちらを優先するのか。
- AIを使った結果、実際に減った作業や見直した期限はあるか。
- 浮いた時間を何に使い、その変化をどう確かめているか。
- 件数だけでなく、品質、手戻り、引き継ぎやすさはどう評価するか。
- 手が足りない時、誰に相談し、どう調整するか。
「以前こういう依頼が重なって、こちらを止めました」という例があれば、判断の流れを想像しやすい。AIで何件速く処理できたかだけでなく、その後の担当者の一週間がどう変わったかも知りたい。
まだ決まっていないという答えが出ることもある。その場で即座に危険認定するのではなく、誰がいつまでに決めるのか、入社時点でどこまで決まっている予定かを聞く。
逆に、受け答えが滑らかなことだけで安心しきる必要もない。求人票、説明された担当範囲、実例がかみ合っているかを見て、自分が望む働き方と照らし合わせる。
英国の安全衛生当局も、仕事量と役割の明確さを職場づくりの項目として挙げている。
うまい答えを引き出す面接試験ではなく、入った後の仕事を一緒に具体化する質問だ。
「使用可」の内側にある、確認と運用の仕事
もう一つ、「AIを使えます」の中身として聞いておきたいことがある。
会社として認めている道具は何か。必要な費用は誰が負担するのか。顧客情報や社内資料は、どこまで入力してよいのか。出力を誰が確認し、顧客へ出す前に誰が承認するのか。
「自由に使っていい」という言葉だけで、個人のアカウントへ何でも入力してよいとは考えない。機密情報や個人情報を試しに入れる前に、会社のルールと、その道具で認められている使い方を確認する。
米国の標準技術機関NISTも、生成AIのもっともらしい誤りをリスクとして挙げている。下書きが速くできるなら、確認も一瞬で終わる、とは限らない。
また、作った手順や自動化が動かなくなった時の対応も、仕事のうちだ。誰が直すのか。作った人が休んだ時はどうするのか。引き継ぎの時間は取れるのか。
改善した本人にだけ、使い方の説明、修正、問い合わせまで集まり続けるなら、手作業を減らした代わりに、新しい受付窓口を一人で開設したことになる。
AIの性能を聞くだけでなく、使い続けるための確認と手入れを、誰がどの時間で担うのかも聞いておく。ここまで見えていると、「便利な道具がある職場」の日常を想像しやすくなる。
AIでできることと、自分が引き受けることを分ける
AIを使える職場には、面白い可能性がある。繰り返す手間を減らしたり、品質を確かめたり、仕事を他の人へ渡しやすくしたりする工夫は、やってみたくなる。
その魅力を大切にするためにも、使える道具だけでなく、仕事の量と責任の決め方まで見ておきたい。
AIで速くなった後、何が変わるのか。新しい仕事を足す時、何を調整できるのか。改善や引き継ぎも、ちゃんと仕事として扱われるのか。
「AIでできる」と「その仕事を全部引き受ける」は、一つの返事にまとめなくていい。
探したいのは、道具を使いこなすほど受付窓口が増える場所より、道具を使って仕事の進め方を整え、そのための範囲や時間も話し合える場所だ。何を望むかは人によって違う。その違いも含めて確認して選びたい。
AIを搭載したからといって、便利屋の営業時間まで無限に延長しなくていい。
