入社書類を出そうとしたら、案内に提出先が書いていない。「担当の人に聞こう」と電話したら、その人も「ちょっと確認します」。そして別の人を探し始めた。書類を提出する前に、書類のありかを探す冒険が始まる。
担当者が不親切なわけではない。必要な情報が、その人の頭の中か、誰かの古いメールにしかないのだ。
「親切な人」が休むと仕事が止まる
たとえば入社日に必要なものが、口頭でしか伝わらない職場を考えてみる。いつもの担当者なら、提出先も締切も例外も知っている。新人にとっては頼れる人だ。
でも、その人が休んだら? 別の担当者に聞けば答えが変わり、書類の最新版も分からない。昨日までの「親切な対応」が、急に「その人がいないと進まない仕組み」に変わる。
問題は社員の記憶力ではない。情報の置き場所が、人間ひとりになっていることだ。
説明書が働いている会社は、質問が少ない
反対に、案内に「誰が・何を・いつまでに・どこへ出すか」が書いてあれば、本人は順番に片づけられる。住所が決まってから出す紙は後回し。入社日に持参する紙は先に準備。該当しない手続きには「不要」と書いてある。
やることの数は同じでも、迷子になる回数が減る。担当者に届くのも「全部教えてください」ではなく、「この例外はどう扱いますか」という質問だけになる。
優秀な担当者が不要になるわけではない。人にしか判断できない話へ、時間を使えるようになる。
大企業だから正解、ではない
人数が多い組織ほど、全員に一から口頭説明する負担は大きい。ただし、小さな職場でも情報を整理できるし、大きな会社でも古い書類が散乱していることはある。
マニュアルが分厚いだけでも困る。「書いてあります」で質問を追い返し、肝心な例外は載っていなければ、今度は紙の迷宮だ。
必要なのは三つだけ。最新版が一つに決まっていること。期限と担当が見つかること。書いていない場合の相談先があること。
「詳しいあの人に聞いて」で毎回乗り切る会社は、あの人が休んだ日に初めて困る。仕事を支えていたのは手順書ではなく、ひとりの記憶だったと分かるからだ。
