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社長は感じがいいのに、あの部署だけ人が辞めるのはなぜか

社長は廊下で気さくに声をかける。困った社員には異動先も探してくれる。それなのに、ある部署では採用と送別会が何度も繰り返される。会社を見る目が間違っていたのだろうか。

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社長は廊下で気さくに声をかける。困った社員には異動先も探してくれる。それなのに、ある部署では採用と送別会が何度も繰り返される。会社を見る目が間違っていたのだろうか。

親切な経営者と、働き続けにくい部署は同じ会社に存在しうる。社員が毎日直面するのは、経営者との短い会話に加えて、直属上司の指示、仕事の量、変更された締切、誰にも決めてもらえない優先順位だからだ。離職が一か所に集まるなら、その日常を確かめる必要がある。

この記事では、特定の会社や個人を評価せず、部署で離職が続くときの調べ方を考える。以下の職場や会話、人数は説明のための架空例だ。数字だけで上司を犯人にせず、困っている人を守る動きも止めない。その両方を進めるには何を分ければよいのか。

「いい会社だった」という話が食い違う理由

同じ会社の社員が、一人は「上の人が話を聞いてくれる」と言い、もう一人は「相談するだけ無駄だった」と言う。どちらかが嘘をついているとは限らない。働く部署、相談先、その後に起きたことが違えば、会社の印象も違う。

たとえば、経営者が「無理をしないで」と言ってくれる一方、現場では金曜夕方に月曜朝の資料が追加される。直属上司も忙しく、「どの仕事を後ろに回しますか」と聞かれても答えられない。温かい言葉はあっても、週末の仕事は減らない。

ここで調べたいのは、誰が本当は優しい人かという人物評よりも、追加の仕事を引き受ける際に何を減らせるのか、誰が締切を変えられるのかという実際の動きだ。「昔の世代だから」「あの人は不安が強いから」と年齢や内面を推測しても、その手順は見えてこない。

本人の話も「上司が怖い」で止めず、話せる範囲で具体的に聞く。「指示が変わったのはいつか」「何を確認したら、どう返ってきたか」。相談者に完全な証拠集めを背負わせる必要はないが、出来事が分かるほど、直す場所を探しやすい。

3人辞めた、だけでは何が分からないのか

仮に、ある小さなチームで2年間に3人が退職したとする。気になる数字だが、それだけで離職率も原因も決まらない。何人が在籍していたのか、途中で何人採用したのか、定年や契約満了を含むのかで、数字の読み方は変わる。

最初にいた3人が全員辞めた場合、「当初の3人が誰も残っていない」とは言える。しかし、これを無条件に「年間離職率100%」と書くと、対象者も期間も変わってしまう。期間中の退職人数と、その期間の平均在籍人数から割合を出すなら、計算方法を明示し、比べる部署でも同じ方法を使う。

最初の確認では、割合だけを大きく表示するより、期間、在籍人数の推移、入社・退職・社内異動の人数を並べるとよい。会社を辞めた人と、会社に残って部署を離れた人は分ける。小さい集団では一人の移動で割合が大きく変わるため、順位表だけで優劣をつけるのは乱暴だ。

さらに仕事内容、勤務地、採用直後の人が多いか、繁忙期や組織再編が重なったかを確かめる。離職の集中は調査の入口になるが、上司の言動が原因だという証明ではない。逆に、退職者がまだ出ていなくても、具体的な深刻な相談を後回しにする理由にはならない。

退職理由の欄から、仕事の場面へ進む

「キャリアアップのため」と書かれた退職理由は、そのまま尊重したい。会社に都合よく丸めた言葉だと決めつければ、本人の選択まで否定してしまう。ただ、その一行だけでは、残る人の仕事をどう改善できるかは分からないこともある。

確認するなら、答えるかどうかを本人が選べる形で、「続けるうえで負担だった仕事はありましたか」「相談した後、何か変わりましたか」と尋ねる。去る人を引き止めるために理由を問い詰めたり、上司への批判を言わせたりする面談にはしない。

たとえば、別々に聞いた複数の人が「完成後に、最初にはなかった条件が毎回追加された」と話すなら、実際の依頼文とレビューの経緯を確認する手がかりになる。指示の変更自体が悪いわけではない。変更の説明、追加の作業時間、納期の調整まで扱われたかが重要だ。

一方、担当者が替わっても同じ納期遅れが続くなら、人柄だけでは説明しにくい。仕事量や依頼の受け方も候補に入る。聞き取りで得た話と記録を照らし、上司側や関係者の説明も別に聞く。結論を先に決めて証言を集めると、改善策も外しやすい。

異動した人が楽になっても、確認は続く

本人が望む異動で負担が減るなら、それは大事な成果だ。ただし、異動の成立と、元の部署で起きた問題の解消は別々に確かめたい。

異動先では落ち着いて働けるようになったのに、後任も同じように締切に追われる。そんな場合は「前の人が合わなかった」で話を閉じにくい。逆に、異動後に状況が良くなったことだけで、元の上司の違法行為が証明されるわけでもない。仕事の内容や人員構成も変わっているかもしれないからだ。

相談を受けた側は、当面の負担を減らす担当者と、起きたことを調べる担当者、次に確認する日を決めておくと動きやすい。たとえば、連絡窓口を一時的に変える、追加依頼は文面で共有する、締切の競合を上位者が調整するといった方法を、本人の希望や業務への影響も確認しながら検討する。

どれも全員に同じ形で適用する処方箋ではない。特に異動では、本人の希望、仕事内容、評価や待遇への影響を確かめたい。相談した人だけが機会を失う解決では、次の人も相談しづらくなる。

上司も忙しいなら、何を変えられるのか

管理職が疲れ切っているとき、部下への接し方だけを研修で直そうとしても、仕事が回らない原因は残ることがある。たとえば、三つの部署から同じ週の納品を求められ、断る権限も、応援を頼む手段もない状況だ。

この場合は「部下ともっと丁寧に話そう」に加え、上位者がどの依頼を延期するかを決める必要がある。全部を最優先と呼んだままでは、現場が残業で順番をつけることになってしまう。

確認したいのは、仕事を止められる人、他部署との調整を引き取る人、管理職が実務を抱えすぎたときの相談先だ。そのうえで、具体的な言動の問題にも向き合う。負荷の説明と、不適切な扱いを受けた人への対応は、両方必要になる。

「この上司を替えれば終わるのか。それとも、後任も同じ無理を引き受けるのか」。この問いを置くと、人の配置と仕事の設計を一緒に見直せる。もちろん、実際に何が起きているかを調べず、すべてを仕組みのせいにするのも早計だ。

ハラスメントの判断を、改善の開始条件にしない

日本の職場のパワーハラスメントには法的な判断基準があり、厳しい指導や不満がすべて該当するわけではない。具体的な判断は、言動とその状況を踏まえて確認する必要がある。[1]

それでも「法的にパワハラと決まるまで、締切も業務量も見直せない」と考える必要はない。仕事の進め方を改善する提案と、個別の行為の法的評価は分けて扱える。以下の確認方法も、すべてが法律で一律に義務づけられた手順という意味ではない。

日本の公的案内では、判断に迷う段階の相談にも対応することや、相談・確認への協力を理由に不利益に扱わないことが示されている。[2] この制度の説明は日本についてのもので、他国の法制度を説明するものではない。

実務では、誰が話を聞き、誰まで情報を見るのかを、可能な範囲で先に伝えたい。小さな部署では名前を消しても、職種や異動時期で人が分かる場合がある。相談記録や健康に関する情報を、部署の比較表にそのまま載せるのは避ける。権限を持つ担当者が必要な範囲で扱い、組織全体への共有では個人が推測されない粒度を検討する。

次の採用より前に、変えた仕事を確かめる

対策の進み具合は、「研修を実施した」「面談を増やした」だけでは捉えにくい。金曜夕方の追加依頼が問題だったなら、翌月には依頼の締切、例外の承認者、納期変更の扱いがどうなったかを見たい。

たとえば、こうした確認項目を、担当者と確認日を添えて残す。

  • 追加依頼が来たとき、既存の仕事の優先順位を決め直せているか
  • 完成後の条件変更を記録し、必要な作業時間を見積もれているか
  • 相談した人に、何を確認中か、次にいつ連絡するかが伝わっているか
  • 異動した人と元の部署の双方で、同じ負担が続いていないか

相談件数が減ったことも、それだけで成功とは言い切れない。問題が減った可能性と、話しても無駄だと思われた可能性を見分ける必要がある。反対に、窓口を使いやすくした直後に相談が増えても、直ちに職場が悪化したとは限らない。件数と実際の出来事を一緒に見る。

経営者の気さくさは、そのまま会社の良いところであってよい。そこに、現場で仕事を減らし、判断を引き取り、困りごとの行方を確かめる仕組みが加わると、その良さが日常の働きやすさにつながる。

次の人を採用する前に、一つだけ確認したい。前の人が困っていた金曜夕方の仕事は、いま誰が、どう調整しているのか。答えが「今度の人なら頑張れる」だけなら、採用以外に手を付ける場所がまだ残っている。

出典

[1] 厚生労働省「あかるい職場応援団:パワーハラスメントとは」 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/harassment_list/power-hara/

[2] 政府広報オンライン「NOパワハラ なくそう、職場のパワーハラスメント」 https://www.gov-online.go.jp/article/201304/entry-8380.html

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