0. 先に結論:笑えるのは「淫夢を知らない店が、一番堂々としている」から
このネタのおいしいところは、店主が筋金入りの淫夢厨で、わざとINMU KINGを流したことではない。むしろ逆だ。
淫夢を知っている側は、元ネタも語録も、ネットでの扱われ方も知っている。だから公共の場で曲が聞こえた瞬間、知っている人だけが勝手に動揺する。
《おい待てぃ》 《まずいですよ!》 《ファッ!?》 《これもうわかんねぇな》
一方、何も知らない店は強い。
店「USENで流れてる人気曲ですね」
淫夢厨「そうですね……」
店「いい曲ですよね」
淫夢厨「そうですね……」
店「何か問題あります?」
淫夢厨「ないです」
実際、ないのである。しかも説明しようとすると、「なんでそんなに詳しいんですか?」という第二の問題が飛んでくる。
淫夢厨「なんでこんな曲を堂々と流してるんですか!」 店「なんでそんなに詳しいんですか?」 淫夢厨「……」
完全敗北。一般店、強すぎィ!
淫夢厨どうしなら「これは表でやるとちょっとアレだな」と暗黙に踏みとどまるところを、事情を知らない店だけがノーブレーキで流す。知っている人ほど自重して、知らない人ほど堂々としている。この逆転が、ラーメン屋USENの一番の笑いどころだ。
ラーメンを食べている。店内には普通の有線放送が流れている。次の曲が始まる。
淫夢厨A「……ん?」
淫夢厨B「おい待てぃ」
一般客「?」
店員「?」
聞き覚えしかない空気が店内を包む。
淫夢厨「ファッ!?」
店「USENですけど……」
面白い理由は、単に「淫夢の曲がラーメン屋で流れたから」ではない。知っている人ほどためらうのに、何も知らない店だけが、ただのヒット曲みたいな顔で流している。そこが本体である。
1. まず事実:INMU KINGは本当に一般チャートまで来た
先に「なんで許されてるの?」を整理しておく。
ORICONに載ることは、健全認定でも「公共空間で流してヨシ!」の判定でもない。ORICONの週間YouTubeチャートは、YouTube上で同じ楽曲として集計される公式MVや許諾されたユーザー動画などの再生回数を数えるランキングだ。チャートが見ているのは、まず「どれだけ再生されたか」である。
淫夢厨「元ネタの文脈がですね……」 ORICON「再生数です」 一般店「じゃあ人気曲なんですね」 淫夢厨「おい待てぃ」
ランキングは事情聴取をしない。ネットの内輪の文脈が一般の場へ漏れ出す、最初の穴がここだ。
2026年9月25日〜10月1日のORICON週間YouTubeチャートで、「INMU KING / YAJU-MC」は2位、3,866,043回を記録した。数字の上では、もう「ネットの片隅で淫夢厨だけが見ている動画」ではない。
USENの公式「週間 USEN HIT J-POPランキング」は、USEN音楽放送のオンエア実績やリスナーからのリクエストなどを基に、上位曲と注目曲を流す番組だ。
ただし、ここは大事なので810回言う。「ORICONで2位になったから、INMU KINGが自動でUSENに入った」とは確認できていない。INMU KINGがUSENの公式ランキングに入ったことも、確認できた公式情報だけでは断定できない。
だから、
《オリコン2位》 ↓ 《USENが自動採用》 ↓ 《全国のラーメン屋で強制田所浩二》
みたいな一本線にはしない。
とはいえ、「入ったラーメン屋でINMU KINGが流れていた」という目撃談はネット上に出ている。なんだこれは……たまげたなぁ。
2. 知ってる人ほど流せない、知らない店ほど流せる
淫夢を知っている人が自分の店でINMU KINGを流すなら、多少は考える。
「客層大丈夫か?」 「元ネタ知らない人いるよな?」 「これ俺が選んだと思われる?」 「職場で淫夢厨バレするの嫌なんだよなぁ……」
知識がブレーキになるわけだ。ところが店が元ネタを知らず、USENや自動選曲で流しているだけなら、そのブレーキがない。
店「最近の人気曲なんだな。ヨシ!」
淫夢厨「ヨシ!じゃないが」
店「何か問題でも?」
淫夢厨「あっ……ないです」
一番元ネタを知っている客が縮こまり、一番何も知らない店が一番堂々としている。知識の量と堂々さが、きれいに反比例している。
3. 「淫夢厨だ!」と勝手に仲間認定される店
店は何もしていないのに、人格が生えてくる。
店「有線を契約しています」
客「INMU KING流れてる!」
客「この店、淫夢厨だろ」
店「違います」
客「またまた」
店「本当に知らないです」
客「あっ、ふーん(察し)」
否定しても終わらない。むしろ「知らない」という説明自体が面白さを増やす。
店主が本当に淫夢厨で、わざと選曲していたなら、それは普通のネタ店だ。でも、何も知らない店が、何も知らないまま、淫夢厨より堂々と淫夢曲を流している。この無自覚さが完成度を上げる。
その結果、ネットで勝手に話題になる。
《あのラーメン屋INMU KING流れてて草》 《店主やりますねぇ!》 《行ってみたい》 《ありがとナス!》
広告費0円。
店「何で客増えたんだ……?」
ネット「いいゾ〜これ」
4. 笑いの正体①:観客だけが知っている「知識の差」
これは、観客だけが事情を知っている古典的な笑いに近い。
店員は普通に仕事をしている。一般客も普通に麺をすすっている。しかし淫夢厨だけは「この空間でこれ流れてるのマジ?」という追加情報を持っている。同じBGMなのに、頭の中の意味が違う。
一般客「なんか最近の曲」
店「店内BGM」
淫夢厨「公共空間に出していいんですかね……?」
この情報の差が笑いになる。しかも店に悪意も狙いもないので、ツッコミ先がない。
淫夢厨「止めろ!」
店「なんで?」
淫夢厨「説明すると俺が死ぬ」
詰みである。
5. 笑いの正体②:「ヤバそう」と「別に害はない」が同時にある
ユーモア研究に、McGrawとWarrenの「benign violation(無害な違反)」という考え方がある。ざっくり言えば、「ちょっとルール違反で場違いでヤバそう」なのに、同時に「まあ実害はない」と感じると、人は笑いやすい。
ラーメン屋のINMU KINGは、かなりこれに近い。
淫夢厨の脳「いやこれ、元ネタを考えたら公共BGMとしては場違いだろ!」
現実「でも流れているのはただの楽曲で、客は普通にラーメン食ってるだけ」
危険ではないし、事件でもない。ただ文脈だけがおかしい。
「おい待てぃ」 ↓ 「でも誰も困ってない」 ↓ 「じゃあ草」
場違いなのに平和、というわけだ。
6. 笑いの正体③:ネットの地下室が急に現実へ出てきた
淫夢文化は長いあいだ、「知っている人には説明不要、知らない人には説明しづらい」タイプのネットミームだった。それが普通の音楽ランキングへ入り、さらに店内BGMで流れる。ネットの中で成り立っていた文脈が、ラーメン屋や一般客という別の文脈に、一気に重なってしまう。
これは「context collapse(文脈の崩壊・混線)」に近い現象として見ると分かりやすい。本来、《淫夢を見る場所》と《昼飯を食う場所》は別だった。それがUSEN一発で同じ空間になる。
淫夢厨「棲み分けとは?」
USEN「知らん、流すぞ」
店「なんか人気みたいですね」
淫夢厨「やめてくれよ……(歓喜)」
7. 「淫夢厨バレを恐れる淫夢厨」と「何も恐れない一般店」
このネタが妙に強いのは、淫夢文化に昔から「詳しいこと自体がちょっと恥ずかしい」という自己ツッコミがあるからでもある。
語録をすぐ理解する。元ネタを当てる。人物を見分ける。詳しければ詳しいほど、「なんでそんなに詳しいんですかね……?」が自分に返ってくる。だから淫夢厨は、公共の場ではしばしばステルスする。
ところが一般店には、その恥ずかしさがない。知らないから。
淫夢厨:知識100、堂々さ20 店:知識0、堂々さ100
店の圧勝である。
8. だから「店が淫夢厨」より「店が知らない」ほうが面白い
ここを逆にすると、笑いが弱くなる。
店長「俺、淫夢大好きなんすよ。だから毎日INMU KING流してます」
これは分かる。意図と結果が一致しているからだ。でも、こうなると急に面白い。
店長「え? 何ですか淫夢って?」
店内「♪INMU KING」
客「ファッ!?」
本人だけが、自分の店で何が起きているのか知らない。そして詳しい客ほど説明したくない。
店長「この曲、何か有名なんですか?」
淫夢厨「知らない方がいいっすよ」
店長「?」
淫夢厨「そのままでいてくれよな〜頼むよ〜」
これが完成形だ。
9. 結論:「一般側が意味を知らずに踏んだ」から面白い
INMU KINGがチャート上位に来たこと自体も、かなり異常な光景ではある。ただ、ラーメン屋USENの笑いの核心はそこだけではない。
淫夢厨は元ネタを知っているから、公共の場で一瞬ためらう。一般の店は元ネタを知らないから、何もためらわない。結果、一番慎重な淫夢厨の目の前で、一番無垢な店が一番堂々と淫夢を放送する。
店「ただのUSENです」
淫夢厨「そうですね」
店「人気曲みたいですね」
淫夢厨「そうですね」
店「いい曲ですね」
淫夢厨「……そうですね」
心の中:ファーーーーーッ!?
そしてSNSに書く。
《ラーメン屋でINMU KING流れてて草》
店には新しい客が来る。
店「最近なぜか若い客増えたな」
淫夢厨「やりますねぇ!」
店「ありがとうございます」
淫夢厨「ありがとナス!」
店「ナス……?」
終わり。
出典・確認情報
- ORICON NEWS「週間 YouTubeチャート 2026年09月25日~2026年10月01日」:INMU KING / YAJU-MC 2位、3,866,043回
https://contents.oricon.co.jp/rank/yt/w/2026-10-01/ - USEN MUSIC GUIDE「週間 USEN HIT J-POPランキング」:オンエア実績、リクエストデータ等を基に構成
https://music.usen.com/ch/A26 - McGraw, A. P. & Warren, C. (2010), “Benign Violations: Making Immoral Behavior Funny,” Psychological Science
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20587696/ - Marwick, A. E. & boyd, d. (2011), “I tweet honestly, I tweet passionately: Twitter users, context collapse, and the imagined audience,” New Media & Society
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1461444810365313
