自慰で満足しても、なぜ恋人とセックスしたい? 快感だけでは埋まらない「二人の物語」

読書機能の使い方

聴く:本文を読み上げます。速読:語句を順に表示し、速さを調整できます。語学練習:別の言語版と対訳を読み比べます。保存:このブラウザーにブックマークし、プレイヤーの保存済み一覧から開けます。

この記事をシェア
広告
広告

説明: 自慰や性具で快感を得ても、好きな相手とのセックスは別にしたくなる。その理由を「気持ちいい」と「したい」の違い、触れ合い、恋愛の流れ、射精後の満足感から考える。

自慰なら自分のペースで気持ちよくなれる。性具を使えば、挿入に近い身体感覚まで再現できる。それでも恋人とセックスしたい人がいる。なぜわざわざ時間も気遣いも必要な二人の行為を選ぶのか。

欲しいものが刺激だけでなく、「この人とそういう関係になり、これからも続けていく」という体験だからだ。 身体的な快感、行為への欲求、互いの親密さは重なるけれど、同じものではない。

1. 挿入感は再現できる。では「この人と」は?

自慰は性的な緊張を解く手段になる。性具は特定の触覚を補える。でも「目の前の相手と笑い、触れ合い、自然に距離が縮まる」という部分まで、道具に注文するのは難しい。

考えてみると、欲しいのは単発の行為より、その前後を含む関係かもしれない。今日だけ偶然触れ合えた、で終わるより、明日も来週も気負わず近づける。快感の再現と、関係の継続は別の商品なのである。

おかげで人間の性欲は、効率だけ見れば謎だらけだ。身体が満足できる最短ルートを知っているのに、わざわざ会う約束をして、服を選んで、相手の気持ちまで考える。最短経路検索アプリなら「なぜ遠回りを?」と警告してくる。

2. 「気持ちいい」と「したい」は脳でも別会計

脳の報酬を調べた研究では、快感を味わう働きと、何かを求めて行動する働きが区別される。[1] ふつうは協力しているが、気持ちよさの強さと「やりたい」気持ちがぴったり一致するとは限らない。

ドーパミンは求める動機に、身体が作るオピオイドは快感の一部に関わる。ただし脳内物質の役割は重なり合う。「ドーパミンを増やせば恋人が不要」なんて便利なボタンは見つかっていない。

生殖につながる性行動に生物学的な基盤があるのは確かだが、「挿入したい」という個別の好みを本能100%と判定することもできない。経験、相手、状況、期待が加わって、実際の欲求になる。

3. 少女漫画みたいな流れが欲しいのは、女性だけ?

いちゃいちゃして、互いに近づいて、その延長で自然にセックスになる。行為そのものと同じくらい、この流れを好きな人がいる。

逆に、ふれあいも会話もなく、作業のように行為だけを求められたら、身体的な刺激があっても「それは求めていた場面と違う」と感じることがある。性的サービスの価値は利用する人ごとに異なるが、親密な関係を求める人にとっては、行為の提供だけで目的が完結するとは限らない。

この「恋愛漫画の一場面まで込みで欲しい」という感覚は、男女どちらにも起こり得る。37か国・計7,880人を対象とした研究では、恋人への愛情と、抱擁やキスなどの優しい接触の多さに関連が見られた。[2] 関連が見られたからといって、触れれば必ず愛が深まるという因果までは言えない。

また、最初から強い性欲がなくても、心地よい触れ合いの途中で欲求が生じることがある。[3] もちろん、触れ合いが毎回セックスの約束になるわけではない。 望みが合うときに自然に進むからこそ、その場面はうれしい。

4. 射精すると欲求が静かになるのに、関係は続けたい

射精やオーガズムのあとに性的な興奮が落ち着き、しばらく性行為より休息を求める人がいる。触れ合いたい時間と、寝るときには少し離れていたい時間が同じ一晩にあっても不思議ではない。

ここには二つの時間軸がある。一回の性的欲求は満たされて終わる。一方で、好きな相手とまた会いたい、親しい関係を続けたいという気持ちは、その先へ伸びていく。

「さっきまでくっつきたかったのに、今は暑いから寝かせて」。ロマンチックな映画ならエンドロールの場面で、現実の人間は布団の温度調整を始める。恋愛にバグがあるというより、欲求の種類が切り替わっているのだろう。

5. プロラクチン5倍で満足度5倍? マウスくんから待った

2006年の研究は、性交後のプロラクチンというホルモンの増加量が、自慰後より約5倍大きかったと報告した。[4] ただし計測したのはホルモンの変化であり、「性交は自慰より5倍幸せ」という満足度ランキングではない。

さらに2021年のマウス研究では、射精後のプロラクチンを操作しても、射精後の休止状態を説明する決定的な原因とはならなかった。[5] これはマウスの結果で、人間の満足感を直接測った実験ではない。

プロラクチンを無理に上げれば幸せになれる、という裏技はここからは導けない。脳も身体も、ホルモン一本で操作できるほど単純ではなかった。マウスくん、今日も大事な仮説を止めてくれてありがとう。実験は動物福祉への配慮が前提だけど、その働きへの感謝は本物である。

6. 結局、何を満たしたいのか

射精したいなら自慰が役立つ。特定の触覚が欲しいなら性具が選択肢になる。温もりを感じたいなら、互いに望むハグや添い寝がある。「この人と自然に親密になれる関係が欲しい」なら、その答えは二人で作るしかない。

性行為の回数や挿入の有無が、関係の深さを決めるわけではない。相手の同意、好み、心地よさを確かめながら、触れ合う日も何もしない日も選べる関係が大事だ。長く付き合うカップルの研究でも、相手との性的なやり取りや、それをどう受け止めるかが満足感に関係していた。[6]

身体は一回で満足する。でも「この人とまた会いたい」は、そこで完結しない。 人間の恋愛、刺激の再現装置だけで代替しようとすると、なぜか少女漫画の全巻セットが足りなくなる。

参考資料(6件)

  1. Berridge, Robinson & Aldridge (2009), “Dissecting components of reward: ‘liking’, ‘wanting’, and learning”: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2756052/
  2. “Love and affectionate touch toward romantic partners all over the world” (2023): https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10073073/
  3. International Society for Sexual Medicine, “What Is Responsive Sexual Desire?” (2022): https://www.issm.info/sexual-health-qa/what-is-responsive-sexual-desire
  4. Brody & Krüger (2006), post-orgasmic prolactin study: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16095799/
  5. Valente et al. (2021), mouse prolactin/refractory-period study: https://www.nature.com/articles/s42003-020-01570-4
  6. Péloquin et al. (2024), sexual exchanges and satisfaction in long-term couples: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11398990/

今日これ読んで

この記事を読んだ人の次の疑問に、それぞれ答える記事です。

すべての記事から探す「健康・からだ」の記事をもっと見る

この記事が役に立ったら、応援できます。 応援する

広告
広告
広告

他の記事を探す

すべての記事

めんどいちゃん

このサイトの運営者

めんどいちゃん

仕事や日常の「めんどい」を構造化して、次に動きやすくする記事を書いています。